講師にとって欠かせない「フィードバック力」

研修において欠かせない「フィードバック」

研修において、フィードバックは非常に重要だと考えています。

受講生の今の姿、あるいは教えたことをやってみた(素振りしてみた)姿について、客観視して、気付きや修正の機会を与えるためにあるからです。教えたことがそのまますぐできることは少ない。また、研修を受けたままで、そのまま仕事で実践することも難しいことが多い。そういった意味で、やらせてみて、その結果を講師から見てフィードバックしているのですね。

また、受講生同士でもロープレなどをフィードバックする機会があります。ここでは、観察者にも、学びがあります。フィードバックするためには、観察視点や注意力が求められるので、その分学びがあるからです。

さて、そのフィードバックですが、今回はその「フィードバック」で大事なこととは何か?、どんな落とし穴があるか?こうした点に気づいたキッカケ、痛い体験をした自分の失敗談をお伝えします。

厳しいフィードバックだけがフィードバックではない

その頃は、自身も講師として5年ぐらい続けてきた頃でした。ある程度の登壇経験を踏んで、自信と対応力が付いてきた頃、38才ぐらいの時でした。

その日は、新卒入社後、3年間かけて育成をしていくシリーズ研修の最終回の1回前でした。入社して3年目後半の社員が対象でした。受講生とは何度も会って、ほぼ顔と名前が一致していましたし、特徴やクセ、ウィークポイントも把握していた頃です。

受講生の中で、明らかにスキルや能力は高いのに、意識(意欲)の面で物足りないメンバーが数人いました。その彼らに対して、どう対処していくべきか、事務局とも相談しながら進めていました。事務局からは「もう3年目なので、甘えさせないで自律させて欲しい」と依頼頂いていました。

その言葉を聞いて、私は意識の低い数人のメンバー個々に、厳しいフィードバックを行いました。「知識やスキルがあるのに、勿体無い。課題はここだよ。解決しない場合のリスクと、個人個人の課題と必要性」、こんな事を1人1人説いていきました。もちろん、悪意などなく、善意で行ったことでした。

しかし、意図に反して、受講生のモチベーションはその後更に下がってしまいました。明らかに、自信をなくしてしまったように感じました。

最終回の前であったことから、私も「最終回までに彼らを仕上げなくては!」と焦りがあったのかもしれません。フィードバックの内容自体は間違ってはいなかったのだと、今も思います。ただし、「伝え方」が不適切でした。受講生の「やってみよう」「やってみようかな」と思わせる、意識転換、動機付けが全くできていなかったのです。

言い方を変えれば、「指摘した事項は正しいが、言い方が完全に間違っていた」のです。受講生を自律させるために、厳しいフィードバックをした方が良いと思ったのです。つまり、北風と太陽の、北風を強く吹きかけることでした。

研修におけるフィードバックの位置づけ

さて、ここで改めて。研修の目的を考えてみたいと思います。

受講生の成長、そして意識と行動の変容です。

さらには、業務改善や会社の目標達成に資することを通じて、個人の成長にもつなげていくことです。

研修において、受講生に課題があっても、彼らの成長意欲を阻害してしまっては、講師としては失格でした。知識やスキルがあるのに意欲が低いままなのは、明らかに別の課題があったはずです。そこには触れずに、目に見える意欲や意識などの問題に対して、厳しいフィードバックだけをしても、各自の課題解決に役立ちません。いや、逆効果だったでしょう。

単純に課題を指摘し、フィードバックするだけならば、社内でも出来ることかもしれません。しかし、会社の上司、同僚、事務局(人事部)ではない、外部の立場・役割だからこそ、出来るフィードバックがあるはずです。受講生の成長を阻害している要因に対する「考え方」「捉え方」「方向性を照らす」、勇気づけをすること、これは十分できるはずです。

この経験を通じて、私は、講師のフィードバックは、厳しく課題を伝えるだけではない、と痛烈に感じることができました。そしてこの講師フィードバックは簡単なようでとても難しく、かつ腕の違いが見えるところだと確信しました。「教える」ことの上手い下手以上に、「動機付ける、勇気づけをする」仕方、伝え方、温度感をどう作るか。その違いが明瞭です。

自身の講師スキルに対する警鐘としても、この経験はとても貴重でした。そして他の講師を観る目線としても、講師のフィードバックについて視点とチェック項目が格段に増えた経験でした。